まるびのパイプ考



プロローグ:
その昔、東アフリカを旅行した際にお土産物屋さんでパイプを見つけたのが始まり。
タンザニア産の海泡石という素材でできたパイプです。
当時パイプに興味があったわけでは無く、ただ軽石のようなそれでいて光沢のある
ちょっと変わった素材に惹かれて何気なく買ったのを覚えています。
お土産として数本買って帰国、知人たちに配った後、手元に残ったのが3本。
そのうちの1本を自分で使うことにしたことが、後の私の人生を変えました。
大袈裟ですか、ごめんなさい。


第一部:ともかく吸ってみよう。
「ともかくパイプってどんなものか吸ってみるかいな。」
全くの予備知識無しで「火さえ付けりゃあいいだろう。」って考えで
適当に買ったパイプ煙草を、適当に詰め、適当に吸う。
これが難しい!! すぐに火は消える。かといって消えないようにとスパスパ
やりすぎると今度は持っていられないくらい熱くなる。
当時はインターネットなど無くて、周りにパイプスモーカーの知人も居ません。
どうやるのか、何が悪いのか見当も付かない。
何の知識も無いまま適当にあーだ、こーだと一人で工夫しながら我流で吸っていました。
まあ、それほど頻繁に吸っていたわけではありません。ちょっと気が向くと吸ってみる。
煙草葉が無くなると何ヶ月も吸わない。たまたまパイプ煙草が売っているのを
見かけたら、また買って吸ってみるという程度ですね。
時々は店頭に陳列してあるパイプも目にしてはいましたが、物欲が刺激されることもなく
買い求める気も全く起きませんでした。(私としては珍しいことです。)
「パイプなんてみんな同じ。1本あるからいいや。」そう思っていたのでしょう。
こんな状態で約20年間、たった1本の海泡石のパイプで自己流に吸っておりました。

第二部:物欲。
ある日の午後、偶然立ち寄った煙草専門店。
そのお店には奇麗なパイプや用品がずらりと並んでいるではありませんか。
「うわー、沢山あるなー。」 今までならそれだけで済んだハズでしたが、
その時に限ってなぜか急に「面白そうやん!」と興味が・・・
多分ニュートリノが私の脳細胞の重要な部分を直撃したのだと思います。
店主にあれこれ教えてもらい、その日は煙草だけ買って帰宅。
その夜から怒涛の勢いでインターネット上のパイプに関する情報を
集め始めます。
まず、自分が使っているパイプの素材は“海泡石”という石。
そして現在のパイプ素材の主流はブライヤーという種類の木の根っこ。
それで、
「そうか、木材だと熱伝導率が低いから熱くならへんのやな。」
「ほな、ブライヤーパイプっちゅうのを1本買ってみよ。」
「わあ、いろんな形のがあるなー。」
「や、これかっこええなぁ。」
「お、こっちのもええやん。」
「あ、これ安いがな♪。」
てな調子で、潜在的に豊富な物欲が全身の毛穴から噴出します。
あれこれと安パイプを買い集めては一人悦に入っておりました。
こうして今日に至る訳です。はい。

第三部:習得。
まず、パイプスモーキングの基本は“燃焼温度を上げないこと。”です。
そろりそろりと低温でゆっくりと吸うのです。
ヘタに吸って高温燃焼させると、煙草がまずく、そして辛くなります。
更にはプライヤーが焼けてパイプを傷めてしまうことになりかねません。
ところで私が使っていたのは海泡石という素材のパイプです。
当然のことながら私は思いっきりヘタクソな吸いかたをしていましたので
何度もアッチッチにしたことがあります、しかし幸運なことに海泡石のパイプは
焼ける心配の無い素材だったんですね。所詮は”石”ですから。
無茶してもパイプが傷まないので、煙量が欲しいが為かなりスパスパやって
温度を上げてしまうクセが付いてしまいました。
しかし、海泡石はブライヤーに比べ熱伝導が良好なので高温燃焼させてしまうと
すぐに熱くなり手で持っていられなくなります。
つまり、知らず知らずのうちに高温にならない吸い方もできるようになりました。
良かったのか、悪かったのか・・・

第四部:誓い。
最近、仕事関係の知人がベテランスモーカーであることが判明。
長い付き合いでしたが、パイプの話題を外部に持ち出さない者同士
お互いに全然気付かなかったわけです。
その年配の知人とパイプ談義に花が咲いていたときのこと、

 知人:「1万円以下の安パイプはだめだ。そんなの使うなよ。」
まるび:「え・・・・・・?」
 知人:「いい歳して2万円以下のパイプなんか買うんじゃないぞ。」
まるび:「あ・・・・・・(汗)」
 知人:「2万円以上のパイプは何本あるんだね?」
まるび:「ゼ、ゼロです・・・・・(滝汗)」
 知人:「・・・・・」
まるび:「・・・・・」

そして、そのパイプの大先輩からキツく諭されました。
「2万円未満のパイプは買うな。どうしても買うならワシを倒してからだ。」
と。

以来、今まで見向きもしなかったやや高価な価格帯の製品を意識し始める。
するとどうでしょう、やっぱりヨイです〜!。
「高いものが良いとは限らないが、良いものは高い。」のです。
そういったのを一度目にすると、今まで自分が使っていたモノがみんな貧相に
見えてくる。これで物欲噴射が第2段階へと移行。

私は誓いを立てました。

  “今後、まるびは(定価)2万円未満のパイプは買いません。”
                  但し、これは絶対ではなく例外は認める。(弱っ!)

この誓い以後、定価2万円以上のブツ(の特価品)を買うようになりました。
なにも成金趣味の超高級品を持つ必要は無いと思いますが、経済的に許せる範囲で
マトモなモノを持つ充実感、いいもんです。
やっぱ、いい歳のオッサンがガキと同じモノ使っててはダメですよね。
「安物を多数持つより、良いものを少数持て。」
これは高校の時の先生の言葉ですが、その通りだと思います。
私は決して裕福ではありません、それどころか“まるび”です。
しかし、心までみみっちくならないように心がけたい。
気合を入れて手に入れた道具は愛着を持って永らく大切にできるのでは?
 The 自己満足 !!

ところが・・・ 後日談。
久しぶりの東京出張の折、この知人@パイプ大先輩と一緒にアメ横へ行く機会がありました。
大先輩、一軒目のパイプ店に到着するや、「おっ!これいいね!。」と、いきなりパイプ購入。
よく見ると定価¥12600也。 あれ???
「テメェ!オレには2万以下のパイプ買うなって言ったろーがぁー!」と腹の中で叫んで、

まるび:やんわりと「安いパイプも買うのですか?」
 知人:平然と「安くてもいいものはある。」
まるび:「それはそうですが、私には2万以下のパイプは・・・(略)・・・と。」
 知人:「あら、そんなこと言ったっけ?。1万でも良いモノあるさ、ちゃんと選びなよ。」
まるび:「・・・・・・・・・・・」

私は誓いを訂正しました。

  “今後、まるびは(定価)1万円未満のパイプは買いません。”
                  但し、今後更に変更の可能性有り。

第五部:理想のビリヤードを求めて。
パイプには様々な形がありますが、一般の人がさっと思い浮かべるパイプの形といえば
“ベントタイプ”と呼ばれる湾曲した形が多いのではないでしょうか。
少なくとも私の周囲では大半の人がそうであり、実際ショップへ行っても
ショーウィンドゥを占領しているのは美しい曲線を持ったものが圧倒的多数です。
妖艶な曲線美で我々オジサン達を誘惑しております。
作り手(デザイナー)もアピールし易いのか非常に奇抜なデザインのものも多い。
それに比べ、真っ直ぐで直線的なデザインのものはアピール度が低く地味な存在である。
それなりに種類はあるのですが、個性の主張が難しくどれも同じに見えてしまう。
ネットなどを見ても、売れ残っているのは大抵ストレートタイプ。
しかし、私が最も好きなのはこの真っ直ぐなタイプで“ビリヤード”と呼ばれるタイプです。
一番最初に買ったパイプがこのタイプだったのも、私の頭にあるパイプのイメージがこれだから。
ストレートってダンディーだと思いませんか?
本格的にパイプ喫煙を始めてから色々なパイプを買うようになりました、しかし未だに
よさそうなビリヤードについ目が行くのは“これだ!”というビリヤードを探し続けているからです。
ビリヤードはその形状から個性が発揮し難いのでしょうが、それ故に微妙な違いが楽しい。
今使っているものより、「もう少し大きめがいい。」とか「ボウルに肉厚が欲しい」とか思うのですが、
実際にその通りのものがあったとしても“ピン”と来ないかもしれない。
「じゃあ、具体的にどんなビリヤードが欲しいの?」と聞かれてもはっきり答えられないのですが、
現物を手にして“ピン”と来るかどうか。
自分でもよく分からないけど、“これ!”というビリヤードが欲しい。
果たしてそんなものが存在するのかな?
理想のビリヤードを求めてショップを徘徊し、「無いなぁ。」で、全く違うタイプを購入する
早く見つけないとどんどんパイプが増えてしまう。
もし見つけたら満足してもう買わないのか? どうだろう?
理想のビリヤードに出会ったら物欲抑制スイッチがオンするのか?
わかりません。 それを知るためにも早く見つけたい。

第六部:パイプのイメージ。
「パイプ喫煙」って言うと一般の人はどう思うのか?
私が周りの人達に聞いてみた結果は、“爺臭い”、“お年寄り”、“作家”或いは
“ポパイ”、“スナフキン”といったキャラクターでした。
マッカーサーやシャーロック・ホームズをイメージした人もいましたが、
ダンディーなイメージは無いようですね。
確かに、ゴッホの絵画を見ても、チャーチルやアインシュタインといった著名人の肖像画を
見ても共通点は“年配”の人ばかりです。
なぜ若者はパイプを使わないのか? なぜ老人だけがパイプを使うのか?
ショップ等へ行くと結構若い人がパイプを買っているのを見ますし、若い店員がパイプ愛好家
だったりもしますがやはり少数派でしょう。
パイプスモーカーはある程度の年齢の人達の嗜好なのですね。
なぜかな?
紙巻煙草は一回の喫煙が数分で終わります。気持ちを落ち着かせるための緊急ニコチン摂取です。
だから、慌ててスパスパやる人が多い。
対してパイプ喫煙というものは一度点火するとかなり長時間喫煙できます。
普通1〜2時間以上燃えています。ベートーベンやマーラーに丁度よい時間です。
慌ててスパスパやると燃焼温度が上がってしまい、美味くない上にパイプを傷めることにもなる。
だから、パイプは落ち着いているときに、ゆっくりと燻らせるものなのです。
上手に燻らせる技術も必要です。
つまり経験を積んだ人、そしてゆとりある時間を大切にする人だけが“絵”になる行為なのです。
私の場合20代からパイプを吸ってはいましたが、その頃はただ物理的に吸っていただけでした。
今は“落ち着き”というものを少しは理解できるようになったと思いたい。
各界の著名なパイプスモーカーにはとても及ばぬ人生ですが、年齢だけは確実に近づいている。
若者から見ればもう私は充分に“年配”ですから。
少しは“絵”になるようになっているのかな?

エピローグ:
このように今では色々なパイプを使っていますが、最初に買った海泡石のパイプは
20数年経った現在でも私のメインパイプとして常用しています。
エボナイトのマウスピースがすっかり変色したパイプを静かに撫でていると
あの頃を思い出して「楽しかったね。」と、心で会話していたりする。
古い友達みたいです。
私はモノに対する思い入れって強いんですヨ。


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